インタビューVol.1心臓外科チーム

動物の心臓、循環器の病気を救う獣医師と看護師

中高齢期の小型犬に多く見られる心臓の病気「僧帽弁閉鎖不全症」は、症状が進むと手術以外に助ける方法はなくなります。しかし設備の整った医療施設は少なく、手術を行える獣医師も多くはありません。

そんな中、「小滝橋動物病院グループ」には心臓手術に対し、高い技術を誇る獣医師と、それを支える高い意識を持った看護師によるチームが存在します。東京都内10か所の診療拠点からは、心臓病の疑いがある動物の症例が報告され、循環器チームが即座に対応をします。

グループ代表の中村泰治さんは、著書『もしものためのペット専門医療』の中で循環器チームの素晴らしさについて詳細に語っています。ここではチームの面々に日々の治療について、そして今後の展望を伺いました。

僧帽弁閉鎖不全症の犬を救う若きエースたち

循環器チームに所属する、僧帽弁閉鎖不全症の指導医として活躍する牛尾俊之獣医師、名倉隼平獣医師、上原拓也獣医師にお話を伺いました。

牛尾獣医師)「私は大学時代からグループ内の先輩である井口和人獣医師に師事し卒業と同時にグループに就職しました。当クリニックでは、僧帽弁閉鎖不全症の手術が行えますが、一次診療の獣医師は内服薬の限界は理解しつつも、小規模の動物病院で人工心肺設備を整え手術を行うのは困難です。国内を見渡しても僧帽弁閉鎖不全症の手術をできる医療機関は、圧倒的に不足しているのが現状です。」

名倉獣医師)「私は大学卒業後、日本トップレベルの心臓外科医のもと、僧帽弁閉鎖不全症の手術を4年間学び、その後、小滝橋グループに転職しました。心臓を止めて行う僧帽弁閉鎖不全症の手術は、術中だけでなく、術前の準備と手術後の管理にも知識と経験が求められます。前職場で多くの手術を経験したことが、今に生きています。」

僧帽弁閉鎖不全症の次に循環器系の病気で症例が多いのは「動脈管開存症」です。本来、生後1週間程度で閉鎖する動脈管が閉じず、心臓での血液の流れに異常をきたす病気です。無治療のままでは成熟が難しくなりますが、手術をすることで完治も見込めます。近年は侵襲の少ないカテーテル治療が主流で、チーム内では上原拓也獣医師がカテーテル治療を得意としています。

上原獣医師)「非常に小さな犬の血管は直径が1ミリちょっと。そこにカテーテルを通していきます。この技術はチームに新しく入ってくる後輩にも伝えていかなければと思っています」

−−僧帽弁閉鎖不全症に手術が有効だとしても、高額な手術料金に二の足を踏む飼い主も多いのではないでしょうか。

上原獣医師)「内服治療も長く続けばそれなりの治療費がかかりますし、症状によっては自宅に酸素室をレンタルする必要も出てきます。加えて、嫌いな薬を飲まされることで、動物と飼い主様の関係が悪化したり、薬や酸素室が動物にとって心身のストレスになることもあります。治療について調べてから受診される飼い主様は手術が最善策と理解されていることが多いように感じます。」

勉強熱心な看護師がチームを支える底力になっている

循環器チームに所属する動物看護師のうち、今井彩香さん、清水七海さん、剣持綾香さんにもお話を伺いました。手術では獣医師が求めていることを瞬時に察知し動かなければなりません。そのために常日頃から病気と手術について勉強が欠かせないそうです。

清水看護師)「手術の手技の細かい部分まで、なぜそれが必要なのかを知ると、やるべきことを自分で考えられるようになります。ですから小さな疑問でもすぐに先生に質問するのですが、1聞くと10返ってくるくらい丁寧に説明してくださいます。そうするとこちらもさらに勉強して、深いところを質問する。その繰り返しで知識が身についていきます」

剣持看護師)「他院の手術の様子を見学したり、先生たちが行っているリモートの勉強会に参加させてもらい、幅広い知識に触れるようにしています」

今井看護師)「手術中に撮影された動画を見ながら、先生に術式や器具について直接教えてもらいました。今は看護師の人事や教育を担当しているので、他の看護師たちと動画を見て、ここでこれを使っている、あれが必要だったよねと、情報を共有しています。先生たちの思考のズレをできるだけ少なくすることが、手術をスムーズに進めることにつながると考えています」

こうした看護師の取り組みに対し、獣医師は揃ってリスペクトの言葉を発します。

上原獣医師)「本当によく勉強しています。難しい質問をされることもしばしばで、獣医師のほうも気が抜けません。このチームのために自分に何ができるか常に考えてくれています」

グループ外の医師とも連携を密にとり、スキルを上げていく

循環器系の手術は、命に係わるものばかり。心臓を停止させて行う手術もあり、麻酔科医との連携は重要になります。グループ内では牛尾獣医師が麻酔に詳しいものの専門ではありません。そのため、外部の麻酔専門医とも密に連携を取っているそうです。

牛尾獣医師)「2021年3月に『カリーナシステム』を構築しました。我々が実施している手術の術野、麻酔モニターなどを専門医にリアルタイムで見てもらい、リモートで相談したり指示を出してもらっています」

日本ナンバーワンの手術件数を目指して

僧帽弁閉鎖不全症の手術には、最低でも獣医師7名、看護師3名のスタッフが必要です。ですからできるだけ多くのスタッフが手術に参加し、緊急手術にいつでも対応できる体制が必要と牛尾獣医師は話します。

牛尾獣医師)「もちろん誰でもいいというわけではありません。個々の技術が高く、方向性も同じ人材を育てなければなりません。また、今よりワンランク上のチームを目指したいとも考えています。アイコンタクトでお互いの意思を感じ取れるくらいの高水準にまでチーム力を引き上げるのが目標です。そして、動物たちが手術後に機能を取り戻し、家族のもとへ戻れるように、手術を決意した飼い主さんの気持ちにこたえていきたいですね。」

名倉獣医師)「少し前まで循環器の手術は大学病院と一部の専門施設が実施するのみでした。しかし私たちのグループがそこに参入することで、手術件数は確実に上がってきているはずです。今後、手術件数が東京都1位、関東1位、そして日本1位となるようにグループ全体で頑張っていきたいと思っています。」

もしものための高度専門医療
もしものためのペット専門医療中村 泰治-Nakamura Yasuharu-

飼い主のペットに対する健康志向が高まるにつれて、動物医療に対して求められることは多様化し、専門的な知識が必要とされてきています。
内科、外科、耳鼻科、眼科……と細かく診療科が分かれている人間の病院に対し、動物病院は多くの場合、1人の医師が全身すべての病気を診る「1人総合病院」状態が一般的でした。
しかし、そこから脱却し、高度医療を担う施設や専門分野に特化した病院の増加、施設間で連携し紹介しあう体制づくりなど、人間のような医療体制が求められています。
動物にも高度で専門的な知識を提供できれば、今まで救えなかった命を救うことができるからです。
本書では、グループ病院全体で年間3000件を超える手術を行うなど、動物の高度医療を目指す獣医師が、診断や治療の最前線を紹介し、ペットの「こんなとき、どうする?」という悩みにも、症状別に分かりやすく解説しています。