インタビューVol.2脳神経科チーム

脳神経科のスペシャリストがチームで難病に立ち向かう

東京都内に10か所の診療拠点を構える「小滝橋動物病院グループ」。それぞれ特徴的な設備を持ち、一般的な動物病院で行う一次診療はもちろん、専門的で高度な治療を行う二次診療にも対応しています。

グループ代表の中村泰治さんは、著書『もしものためのペット専門医療』の中で、これまで救えなかった動物の命に立ち向かう小滝橋動物病院グループのさまざまな取り組みを紹介しています。

たとえば、ペットの難病のなかでも、比較的罹患率の高い「椎間板ヘルニア」や「てんかん」「脳腫瘍」に対しては、脳神経科専門の獣医師と、特別な検査機器や手術に対応できる動物看護師によるチームをつくり、日々、多くの動物たちの命と向き合っています。 第2回目は脳神経科チームの皆さんにお話を伺いました。

動物の脳神経の病気を救う獣医師と看護師

その中心的存在を担うのは、「新目白通り第2高度医療センター」のセンター長を務める大竹大賀獣医師です。]

大竹獣医師)「3つの動物病院を経て小滝橋動物病院グループの一員になりました。学生の頃から動物行動学が好きで、神経の勉強を続けてきましたが、一次診療の施設では、高度な検査も手術もままなりませんでした。しかし、ここではCTはもちろんMRIや脳波検査などによる詳細な検査ができます。」

大竹獣医師とともに、神経科の手術の柱となっているのは武藤陽信獣医師。大学時代から神経科の研究を行い、その後もMRI検査や放射線治療など高度な医療に携わってきました。グループ内では二つの施設を兼務しています。

武藤獣医師)「一次診療の動物病院で様子をみましょうと言われても、翌日には大きく症状が悪化するケースは少なくありません。そこから二次診療の病院を探すと手遅れになる場合もありますが、私たちのグループであれば、すぐに専門の獣医師診察や検査を実施することで、圧倒的に救える命は多くなります。」

神経科チームには、ほかにも目黒拓也獣医師、青木理沙獣医師も名を連ねます。若い二人ですが、MRIやCTの撮影や読影には欠かせない存在です。

目黒獣医師)「経験年数は短くても、グループ内に専門知識を持った先生たちがたくさんいるので不安はありません。疑問があれば相談して力になってもらっています。」

青木獣医師)「どのような角度で撮影すれば症状を読み取りやすいか、先輩の先生たちにアドバイスをもらいながら日々学んでいます。年間でMRIは約230件、CTは約360件以上も撮ります。大学病院以外でこれだけの数をこなせるのは、私たちのグループならではだと思います。」

動物看護師もプロフェッショナルだからチーム力が向上する

足の短い犬種、ダックスフンドに多く見られる椎間板ヘルニアは、適切な時期に手術を行えば症状が改善されるケースが多々あります。手術では獣医師だけでなく、動物看護師も重要な役割を担います。 一次診療の動物病院で8年間のキャリアを持ち、2020年にグループに加わった齋藤優美絵さんもその一人。新目白通り第2高度医療センターで看護師長を務めています。

斎藤看護師長)「一次診療の動物病院では『できることがない』と、獣医師が治療を諦める症例をたくさん見てきました。でも、もっとできることがあるのではないかと高度医療の動物病院で働きたいと転職を決意しました。今は新人の育成も含め、先生たちの力になれるように、病気やケガについて、そして最新治療についても勉強の日々です。」 小原 佳音さんも高度医療に携わりたいと、二次診療の動物病院から転職してきました。

小原看護師)「自分の家で飼っていた犬が原因不明で亡くなってしまった経験があり、それ以来、難しい病気の動物の命を救いたいとずっと思ってきました。質の高い医療のために知識を蓄えるのはもちろんですが、自分がそうであったように、つらい思いをしている飼い主さんの気持ちに寄り添える看護師を目指しています。」

飼い主さんにもできることはある。獣医師、看護師に伝えて欲しいこと

脳神経に関わる病気は、いつ、どんなタイミングで症状が現れるかわかりません。自宅で急変しても、病院に連れて行ったときには症状が治まっていることも少なくないと言います。

目黒獣医師)「てんかんで急に発作を起こしたという場合、飼い主さんはどうしても慌ててしまうと思いますが、できれば動画を撮って欲しいと思います。動画であれば具体的な症状、症状が続いた時間も確認できますから診断への大きな手掛かりとなります。」

武藤獣医師)「脳の病気の症状は基本、行動に現れます。ただ、病院に連れてくると動物も緊張して、症状がみられないことが多々あります。ぼーっとしている、急に性格が変わる、首を傾けている、歩き方がおかしいなど、気になることがあったら動画を撮り、診察時に見せてもらえると助かります」

小原看護師)「飼い主さんの中には、獣医師に細かい話をするのは迷惑だと感じている人もいます。気をつかう必要はないのですが、そのお気持ちもよくわかります。そんな時は看護師にどんな小さなことでもいいので話してください。たとえばチャイムが鳴ると症状が出る、掃除機の音を聞くと様子が変わる、最近いびきをかくようになったなど、些細なことでも構いません。看護師が情報を整理して獣医師に伝えます。」

スタッフの日々のたゆまぬ努力が動物たちの命を救う

脳神経科ではMRI検査やCT検査をメインで行っていますが、整形外科や心臓外科など、他の診療科に罹っているペットにもそれらの検査が必要な場合もあります。グループ内では検査が必要だと思われる症例が見つかれば、すぐに脳神経科チームに連絡が入り、症例検討が行われます。

武藤獣医師)「自主的な勉強会をたくさん実施して、各自の知識を高めるのもグループの特徴です。「必要であれば脳神経科獣医師が実際に診察し、できるだけ早く高度な検査を行い、正しい治療へと誘います。チームの横の連携も、グループの誇れるところです」

大竹獣医師)「誰一人として、現状に甘んじない。常に自分の知識と技術の向上を目指しています。また、脳神経科医は比較的ニッチな領域なので、他院の先生たちとのつながりも堅強です。ベテランの先生たちからさまざまな情報をいただきながら、グループ内の水準をますます高められるように努力しています」 勉強会には診療科、獣医師と看護師の壁を越え、多くのスタッフが参加するそうです。スタッフの高い意識、そして高度な診断機器。そのふたつが相まって、小滝橋動物病院グループでは多くの動物たちが元気に、自宅に帰っているのです。

もしものための高度専門医療
もしものためのペット専門医療中村 泰治-Nakamura Yasuharu-

飼い主のペットに対する健康志向が高まるにつれて、動物医療に対して求められることは多様化し、専門的な知識が必要とされてきています。
内科、外科、耳鼻科、眼科……と細かく診療科が分かれている人間の病院に対し、動物病院は多くの場合、1人の医師が全身すべての病気を診る「1人総合病院」状態が一般的でした。
しかし、そこから脱却し、高度医療を担う施設や専門分野に特化した病院の増加、施設間で連携し紹介しあう体制づくりなど、人間のような医療体制が求められています。
動物にも高度で専門的な知識を提供できれば、今まで救えなかった命を救うことができるからです。
本書では、グループ病院全体で年間3000件を超える手術を行うなど、動物の高度医療を目指す獣医師が、診断や治療の最前線を紹介し、ペットの「こんなとき、どうする?」という悩みにも、症状別に分かりやすく解説しています。