インタビューVol.3血液透析チーム

動物への血液透析が当たり前の時代がやってくる⁉

人間の腎臓病治療では「血液透析」はよく知られた治療ですが、動物医療でも血液透析を行う施設があります。人では慢性腎臓病で多く利用される血液透析ですが、犬や猫の場合には急性腎障害に用いられています。

動物の透析といえば、お腹に直接チューブを入れる腹膜透析が広く行われていますが、救命率は低いことが現状です。しかし血液透析ができない獣医療では他に選択肢がないため、腹膜透析はいまだに行われている治療法でもあります。

ところが血液透析であれば、約6割が命を失わず帰宅できているという事実がわかってきたのです。腎臓の機能が回復するまでの期間血液透析を行い体内の恒常性を維持することで、急性腎障害から回復することが可能です。

第3回は、全国で数少ない動物への血液透析を行う小滝橋動物病院の血液透析チームにお話を伺いました。

血液透析が急性腎障害の動物を救っている事実

血液透析をけん引するのは「小滝橋動物病院グループ」に所属する三浦篤史獣医師。2015年に受講した動物の血液透析の講習をきっかけに興味を持ったと言います。

三浦獣医師)「当時、勤めていた動物病院には血液透析の機器が設置されていたのですが、ほとんど稼働していませんでした。私自身は透析に大きな可能性を感じていたので独学で透析機器の扱いを学び、腎臓病への知識も深めていきました。」

その後、小滝橋動物病院グループに籍を移した時、代表から是非血液透析を進めてほしいと言われ、すぐに機械を購入してくれました。

三浦獣医師)「師匠がいない、相談できる人もいないなか、手探りでスタートしたのですが、結果は想像以上に良好でした。急性腎障害の約半数の動物たちが、血液透析によって命を長らえています。」

生きる選択肢。それが血液透析

三浦獣医師)「グループ内のクリニックに急性腎障害の動物が来院すると、すぐに私のところへ連絡がきます。データを読み、内服治療でのみで行くのか血液透析に踏み切るのかを即座に判断し、透析が必要であればすぐに準備に取り掛かります。

先日も、連絡が来てから2時間後に透析を開始。2歳の雌猫が急性腎障害から回復し、元気に帰宅していきました。飼い主様からは『先生は生きる選択肢を与えてくれた』との手紙が届き非常に嬉しく思いました」

−−この飼い主さんが言っている「生きる選択肢」とは、どういう意味なのでしょうか。

三浦獣医師)「急性腎障害の治療は基本的に基礎疾患の治療と点滴の投与のみで、内科治療でできることは限られています。ヒトでは内科治療に反応しない症例に対しては血液透析治療を普通に受けることができます。しかし今の獣医療の現状では内科治療以外にできることは救命率の低い腹膜透析がいいところです。ここで腹膜透析ではなく、血液透析を選択することで、既存の獣医療の治療では救えない症例を助けることができます。今までは死ぬしか運命がない症例に、生きる選択肢を与えることができるのです。」

チームワークこそが透析を成功させる最大のポイント

透析はチーム医療だと三浦獣医師は語ります。

三浦獣医師)「動物を受け入れた瞬間は、もっとも状態が悪いのが常です。心臓が止まってしまうかもしれないという瀬戸際。ここで正しいモニタリング、麻酔の準備、透析の機器のセッティング、麻酔をかけてカテーテルを入れるなど、多くの難しい作業を、スピーディに実施できるチームワークが必要です。今は、透析チーム専属の看護師が優秀で助かっています。」

看護師の一人木村里奈さんは、一次診療の動物病院で2年間働いた後、グループに入社し4年が経過しています。

木村看護師)「弱っている動物が相手なので、最初は感染させてしまわないかなど不安が大きかったのですが、三浦先生の丁寧な指導で自信が持てるようになりました。透析中は動物が動いてしまうと機器にエラーが出ることもあり、こまめにモニターする必要があります。責任は重いですがやりがいも大きいです。」

川島沙紀さんも透析に関わる動物看護師です。

川島看護師)「透析中は動物の状態の変化を見落とさないように、常に気を張っています。どんな小さな変化でも写真や動画を撮り、三浦先生の指示を仰ぐようにしています。どんなときでも的確な判断と指示をくださるので感謝しています。」

つい最近、透析チームに加わった中廣まゆ獣医師は「まだ、症例に関われてはいませんが、三浦先生のこれまでの治療報告を見て、劇的な変化に驚いています。1つでも多くの動物の命を救うために、チームの力になりたいと思っています」と語ります。

透析チームの今後の展望。それは治療を知ってもらうこと

日本国内の動物に対する血液透析実施機関は、わずかずつですが増加傾向にあります。とはいえ、一般の獣医師や飼い主は、「透析で急性腎障害が治る可能性がある」という事実を知らないことの方がほとんどです。三浦獣医師をはじめ、透析チームのメンバーは、対外的に血液透析の治療効果を発信していくと声を高めます。

三浦獣医師)「全国の血液透析を実施している獣医師に声をかけ、勉強会の開催、ホームページの作成などコミュニケーションを深めるように動いています。救える命を救いたい。その思いがあるからこそ、多くの人に知ってほしいのです」

木村看護師)「私が一次診療の動物病院で働いていた時にも、きっと透析で救える命があったはずです。でも、先生もそれに気づかないし、私にもまったく知識がありませんでした。今思えば、多くの動物たちに申し訳ないことをしていたのかもしれません。だからこそ、今の仕事が好きですし、レベルアップを図りたいと勉強に力を入れています」

もしものための高度専門医療
もしものためのペット専門医療中村 泰治-Nakamura Yasuharu-

飼い主のペットに対する健康志向が高まるにつれて、動物医療に対して求められることは多様化し、専門的な知識が必要とされてきています。
内科、外科、耳鼻科、眼科……と細かく診療科が分かれている人間の病院に対し、動物病院は多くの場合、1人の医師が全身すべての病気を診る「1人総合病院」状態が一般的でした。
しかし、そこから脱却し、高度医療を担う施設や専門分野に特化した病院の増加、施設間で連携し紹介しあう体制づくりなど、人間のような医療体制が求められています。
動物にも高度で専門的な知識を提供できれば、今まで救えなかった命を救うことができるからです。
本書では、グループ病院全体で年間3000件を超える手術を行うなど、動物の高度医療を目指す獣医師が、診断や治療の最前線を紹介し、ペットの「こんなとき、どうする?」という悩みにも、症状別に分かりやすく解説しています。